談春さんのこと

ここのところ、落語から、気がついたら遠ざかっている。

もともと狭い範囲を聞いてきて、あとはCDやら書籍やら。

聞きたいと思う高座も限られていて、しかも人気のある演者が多く

チケットがなかなかとれない上に、

先行だのプリセールだのも鬱陶しく

チケット獲得の努力もしていないから当然といえば当然だろうか。

 

 

その昔、まだ東京近郊での落語会が多かった頃には

談春さんの高座によく行った。

落語関連の記事も読みふけっていたので

どうやら人のやらない難しいネタが好きな様子が知れ

「九州吹き戻し」やら、米朝さんの「除夜の雪」など

(特に除夜の雪は、わかる人だけがわかる話が好きだ

と語っていた)

珍しい話をきくことも多かった。

 

 

もともと独演会で聞き応えのする、厚みのある大ネタを好んでかけていたが

ある時期から人情話にシフトし始めて「人情八百屋」「八五郎出世」などを

じっくり聞かせるようになっていく。

はずれない話を、よりわかりやすく、と技術を進化させてきたように思う。

 

 

その分、玄人受けするような話はあまり高座にかからない。

最近好きでよくやるという「御神酒徳利」も、

いかにも落語らしく適度に力が抜けていて、しかもいい人しか出てこない。

嫌な気持ちになることはまずなく、確実に笑い、感動できる。

 

などと考えていたのは、ちょうど宮部みゆきの変わり百物語のシリーズ

「魂手形」を読んでいたから。

今回はかなりぞわぞわして、そっと自分の背後を確かめるような。

物語の終盤の一節に、

ーー百物語を聞くという業を集めるようなことをしてーー

と、この世のものではない使者に告げられるシーンがある。

人が心の奥底に隠していた不思議な話や怪異を、

一度限りと語り捨てるこの百物語、まあ言ってみればホラーになるだろうか。

人の怨念や業、それが何かを呼び寄せて引き起こされる怪異や不思議。

あるいは怪異に人の思惑が絡んで起こる、一言では言い表せないなにか。

 

 

夏でもあり怪談話の季節でもある。

技巧を持ち、それを感じさせないほどの演者に

この話を口演してもらったら、さぞかし酷暑の晩もしのぎやすく・・

さて、そういう趣向が及ばないような酷暑ではあるのだが。