立川志の輔 独演会
9月に取れていた志の輔さんの会が
緊急事態宣言が延びて延期になり、やむなく払い戻しをする。
そのかわりというわけでもないが、宣言が開ければ追加発売がある
と聞いた会場の売出を待つ。
無事チケットが取れて、そういうわけでちょっとした敗者復活戦の気持ちで
会場へと向かう。
この会場は11月から1年半ほど工事休館になるという。
毎年20年つづけた会も、やむなく休止するとのことで
ボーナスのように、一席多く志の輔さんの噺がかかった。
志の麿:大安売り
志の輔:親の顔(新作)
仲入り
ボーナストラック、は高瀬舟。
おや、これはと思いながら聞く。
ほんの少し三味の音が入る。
それこそ「たちきれ」よりも短くかすかに、舟が動きだすシーンにだけ。
そして、さてこの文体は鴎外そのままではないな、などと。
最後に講談風に森鴎外作高瀬舟、読み終わりと・・という文言が入る。
そして、そのままでは落語にならないため一部を変えており
そこがまた志の輔だけに、と思うはずと高座の後に解題風に。
覚えていなかったので、原作を紐解くことにする。
図書館で借りだしたのは、朗読CD付きの文庫本と
ちくま日本文学シリーズの文庫本。
朗読CDは作品の一部分のみ、うーんと思う。
ちくま文庫のほうは、『じいさんばあさん』が収録されており
歌舞伎の原作だったなとそこから読み始め、『寒山拾得』、『山椒大夫』など
いくつか読み進める。
鴎外の作品は『舞姫』の雅で簡潔な文体が印象に残っている。
そぎ落とされているのに、悲恋というテーマにこの上なくあっていて美しい。
落語で高瀬舟とは、と思って簡単に調べてみると円生さんの口演があり
こちらも音源が聞けたので聞いてみる。
(そのほかにもドラマや映画もされているらしい)
円生さんの計算しつくされた端正な語り口は鴎外作品にあっている。
また、いつものごとく物語の説明がしっかりとはいり、
原作に忠実で違和感がない。
志の輔さんは最後のシーンを付け加えている。
罪人の心情を聞き、そこにある種の共感を抱いた同心は
罪人の腰縄を解き、自分と同じ方向を向いて座らせ、
夜の高瀬川を下る。
これは志の輔さんなりの解釈だろう。
そしてそこで解釈を加えたところが、
「志の輔らくご」を作り上げたことからくる自信というのか
覚悟というのか、そんなものなのかな、と感じた。
鴎外の小説には、はっきりとした特徴=文体がある。
落語にするのなら、工夫がいるのは確かで
この場合は、鴎外の文体に変わるものが、何かしらいるという気がする。
それが、演者なりの文体、というかある完成された個性、語り口なのか
などと。
今回は大変興味深い口演を聞けた。
もう少し、このことを考えてみようと思う。