綿矢りさ ウォークインクローゼット

誰かが文芸時評で褒めていて

久々に読んでみる。


ああ、あたりだな、と。

2、3回読み直したから

かなり好きなんだろうな、と。


綿矢はデビューの時から安定感があって

私とは相性のいい作家なんだろう。

悪くない。


アラサーとかなんとか、切実だったり痛かったりする

そんな微妙な年ごろに

結婚したいのにいまだできず、仕事にも熱心でもなく。

そういう子が、リアルで等身大で、結構いかしている。


このくらい。

ほんとにこのくらいの。

精一杯さと切実さがすごくリアル。

ヤモリ、カエル、シジミチョウ

江國香織谷崎賞受賞作を読む。

子供の視点が独特で、童話作家でもある作者の

渾身の1冊、的な書評だったが

そういう部分もあり、それほどでもない部分もあり。


ひらがなだけの、子供の視点から描く世界は

新鮮ではあるが、ある種、ありがちなところもあって

ただ、読みずらいのはちょっとなあ。

7つまでは神のうち、というように

子供というのは大きな意味でこの世と未分化なところがあって

そういう、まだ人間になりきれていない

人間社会のほうを向き切っていない子供の世界・視点が

ありありと見えるのは確かにいいかな。

でも、あんまりワイルドじゃないなあ、という印象も。

何と比べて、といったら、児童文学好きなら

思い浮かぶだろうけれど。


霊園に勤めながら死者に向かって話しかけることが

習い性になってしまった男も、こういう人を知っているからか

なんだかすんなりと自然に感じられる。

話せるのに、聞こえない、という拓人の言い方も

ああ、彼からすればそのとおりだけれど、と。

この中にでてくる登場人物の中で面白いとか共感できるとか

感じたのはこの2人。

それもどうだろう、などと。


圧倒的なものを優しい筆致で書いている。

という点ではなかなか面白い本だった。

画鬼 暁斎 チームラボ、花火大会

 

三菱1号館で「画鬼 暁斎」を見る。

河鍋暁斎は今回展覧されて、どこかでは見ているのだろうが

おそらくははじめて系統だって見る。


毎日の画業の前後に

肩慣らしのようにして観音菩薩像やら鍾馗様を

鍛錬のために描いていた、と聞くと、その膨大な絵の数と

最後まで技法を追求した人生がわかる気がする。

とにかく時間さえあれば描いており

大量の、系統も様々な作品がありすぎて

(多面的過ぎて)評価が遅れた、と聞き

そういう人もいるものだ、としばし考え込む。


その人に弟子入りまでしてしまった

明治のお雇い外人(建築家)の手により

彼の画業や技法

狩野派テクニックをベースに最初に弟子入りした国芳

 浮世絵テクニックも加わり緻密でシステマティック)

日本庭園華道までを紹介したことで

日本美術や文化を海外に紹介することにもなったという。


気分を一新して、銀座に出てチームラボの新作を見る。

この人たちはファインアートであろうとする気が、もとからない。

それがこの人たちの新しさでもあるし

画期的な部分でもあるし、そして権威ある美術館と学芸からは

なかなか受け入れられなかった理由でもある。


銀座で2,3ギャラリーをはしごしてから

古めの喫茶室でゆっくりとお茶を飲む。

そこから多摩川花火大会にむかい

夜空に咲く大輪の刹那の花にしばし見とれて

さて、この夏も終わりか。

こはるの夏休み

7月末、にぎわい座にて。


にぎわい座では隔月で自主公演をやっているこはるちゃん。
春夏だけはにぎわい座が会を催してくれる。
以前聞いたところでは、そういう時はギャラだけもらうので
(会場を借りたりの持ち出しもなく、チケットも
 販売してくれるので)
お金が手元に残るので、ありがたい、とのこと。


今回はその夏の会。
長めのマクラで遅れ客を拾う。
団体客なのか自由席なのに席取りをしたり
開演中でも手を上げて声をかけ合うなど
ちょっと眉をひそめる一幕も。


こはる:そこつの釘
こはる:三方一両損
中入り
こはる:化けもの使い


ネタおろしといっていた割には
どれも安定しており粗さがなく落ち着いたもの。
そつなく、上手に、といって上滑りもなく。


化けもの使いののっぺらぼうのくだりでは
志ん朝さんのおなじみの一言もあり手慣れたもの。


おやおや、と思いながら
もう少し若手をちゃんと聞き始めようか
とおもうことしばし。


同じ日の芸能ホールはでんぱ組のライブとかで
男性限定、女装か和装との縛りがあり
妙な雰囲気。
まあ、それはそれ、で。
そんなことも、と思うばかり。
涼しくなったら、また落語でも。

100万回生きたねこ

gray-oneko2015-08-05

佐野洋子展の初日にでかける。

ここで初めて知ることも多く

会場では、ふわふわの布をはりつけた白い猫と

不敵な顔のとら猫のパネルがあって

写真スポットになっている。

やっぱりこちら、と白い猫と写真をとる。

さて、どういうつもりか自分でもわからないが。


会場では子供サイズの猫型帽子を新聞紙でおり

白い楕円のシールを貼って目を描き、

黒いシールを貼り、脇にひげを描く。


佐野洋子の本を他にもいくつか読み

100万回生きたねこ」へのオマージュの短編を集めた

文芸誌特集も合わせて読んでみる。

江國香織の掌編が、裏返しのようなお話でしゃれている、

と思うし、町田康の作品も気にかかる。


夏は毎日じりじり暑いままゆっくりすぎてゆく。


毎年夏はめぐってくるけれど、思い出は上書きされずに

今年の花火、今年の文学館、今年の落語会。

今年の浴衣、今年の夏着物

少しづつ違って、少しは同じ、定番のもの。


猫、今年は帽子でいかが?

談春さんの独演会 

落語家生活30周年の記念ツアー、
そのオーラスのファイナル公演が8月頭に渋谷であるのだが、

それが取れなかった人のために追加公演をしたのがこの日の会。
追加公演なのに、先にやっちゃうんだけどね、なんて
ご本人もちゃかしている。


目黒区、柿の木坂をあがったあたりの
公共施設と公団の集まる緑豊かな一角に区民ホールがあり
会場はそちら。


春風亭正太郎:権助魚
談春:たがや
談春:小猿七之助(音曲つき)
中入り
談春:居残り佐平治


開演時間が18時半と早いせいか
びっくりするほど遅れ客が多い。
談春さんの話がはじまる15分後でもとぎれなく
1部の終わる20時の直前まで遅れ客がいた印象。
19時の時報が2、3、切り忘れた携帯電話から流れてきて
落ち着いた客層なのかと思いきや、あれあれと。


柿の木坂に実家があるという正太郎さん、元気に権助魚。
枕の老人ホームネタで笑わせる。
座布団とめくりを返す前座さんは借り物で
小せん師匠のお弟子さんとか。

談春さん、正太郎さんとも小せんさんとも
さだまさしファン同士、とご紹介をして
今日は3席夏の話を、とまずは「たがや」。
肝になる部分のことを簡単かつわかりやすく説明をする。
テンポよく喧嘩場の情景描写が続き、
江戸弁の啖呵がぴしぴし決まる。


終わった後も、たがやが死なないバージョンもあるのだが
といいつつ、師匠の談志さんは、たがやの首を横一線に断つ
その描写の台詞回しのよさ、それをいいたいがために
死ぬバージョンしかしなかった云々と解説半分、思い出半分。


次が、夏の話という印象はないけれどさわりの部分で
それと知れて、小猿七之助
ご朱殿の解説に、はあ、なるほどと思うのだが
印象的なセリフ回しの導入部がややぼける。
(せりふ回しに絶大な自信のある談志さんが得意とした
 講釈ネタらしいのだが)

江戸落語だが鳴りものをふんだんに使う。
拍子木の音も小気味よく決まり、
2か所ほど談春さんの言葉が聞き取りところはあったものの
噺の風情は倍加し、音曲のはいる噺が好きな身としては嬉しい。
とはいえ。
それもやはり話芸一本で押してゆく緊張感のあるこの噺を
ちょっと違うものにしかけていたのも事実。
どちらが好きかといえば悩むところ。


やはり1時間半は長いなあ、と思い始めたのは
座席の作りが着物には辛い形と高さだったせいか。


中入時に腰をのばし、少し歩いてこわばりをほぐす。
後半は、会場のおしゃべりから「居残り」と知れて
はて、こちらも夏の話だったかしら、
それにどこかにネタだしされていたのかしらと。


居残りの解説をしかけて、少し文例をあげてみせる。
居残り勉強とはいうけれど、給食を食べきれないで残されるのを
居残りとはいわないですね、などなど。


この日の佐平治は、今まで見た談春さんの佐平治とは
かなり違う。
調子よく、たたみかけるようなところもあり、
堅気ではない恫喝めいた凄みも多少はあるのだが
圧倒的に明るくて軽みがある。
噺の間中、手をたたいて喜び、吹き出し続ける人続出。


さて、この佐平治は落語家の我がでるものらしいが。
終わったあとで、少しは自分も入っているといいつつ
師匠の談志の佐平治は悪党の中にまだ可愛らしさが覗いたが
自分のは100%、完全な悪党ですね、と。


このつきぬけたような佐平治、談春さん何をしたのかしら。
なにか、お金はかかるけれど、いつもの勝負事ではない
重くならない真剣にもならない
どうにも馬鹿馬鹿しい遊びでも誰かとしたのかしら。
それとも、そういう遊び仲間でもできたのかしら。



喉の調子は、かなり悪そうで
小猿の時から、声が枯れつぶれたような気配。
それなのにたっぷり3席、
こんなに手間も体力も気力も使う大ネタばかり。
それはもう、ファンは楽しみで満足ではあるにせよ。
息長く、落語家の黄金期といわれる50-60代を
ファンとともに歩いていくには、もう少し会を減らしてはいかが。
それとも単に夏風邪でも召されたのか。



いずれにせよ、喉はどうぞお大事に。









イタリア紀行

久々のイタリア、個人旅行。

連日35度の酷暑の中、ベネチア、ベローナ、ミラノをめぐる。

 

案外に準備が足りずお目当ては大体こなしはしたものの
もっとあれこれ詰め込めばよかったと後悔しきり。
買い物も食事も楽しいところなのにどうも気分が乗りきらず。
とはいえ、小さなトラブルは頻発したもののまずまずの旅。
 
 
帰りの飛行機が長々気流の悪いところをとおり
数十分も飛行機が揺れ続けたのはご愛嬌。
日本に戻れば梅雨寒の毎日。
今日はようやくすっきり晴れてますますかの地を思い出す。
 
 
いい旅は、またの機会を誘う。
またしばらくは欧州通いが続きそうだ。