「もとのその一」というサブタイトルは千利休の残した歌からきている
と聞いて、利休百首のことか、と思い至る。
茶道の稽古のおりに、扇子に書かれた百首のうちの一首を皆で読み上げ
その歌に先生が解説をつける、そういえばそうだった、と数十年前に
一気に心が飛んでいった。
あの頃は、利休でも百首作った、などとちゃかしたものだった。
稽古のこと、茶道の心得をうたったその歌は、修辞やひねりがなく
ありのまま、まっすぐに求道の道を説くものだったから。
今回の会場は有名な外来オケやバレエの殿堂のホールでもあるらしく
天井の高い吹き抜けのロビーには星空を思わせる印象的なライトが下がっている。
大きすぎると感じていたけれど、確かになかなか雰囲気のあるホールにちがいない。
いつもの独演会の会場で目印のようにたっているのぼりが
さすがに会場の広さと天井の高さにそぐわず、物販の目印にせよチープに見える。
これだけのホールで、見栄えのいい会場装飾をしようとすると
高所作業車を使って、高い天井から下げるタイプのものを仕込まなければならない。
それにしても広いからなあ、どこに出すか悩むところだ、
なあんてことを考えながら、3階までのぼっていく。
どうかと思ったが、それなりにステージもよく見える。
会場にあわせたのか、2席目の代わりに
なぜかクラシックのコンサートがはさまれている。
トークの際に聞いたところによると、兄貴分と慕っている
さだまさしさんの実の息子さんとお嬢さんだそうで、
曲目はごくポピュラーなもの2曲と、作曲もする息子さんの曲を1曲
こちらもくせのない、きれいな曲だった。
談春:除夜の雪
中入
コンサートの前後には、ずいぶんたっぷりとトーク。
除夜の雪は、米朝さんのものだったから、その上演の許可をとるくだりは
自身のエッセイ「赤めだか」にも詳しいが、相変わらずの爆笑ネタ。
TBSから借りてきたというドラマの衣装ですっかり洋装がはまっている。
そういえば、その暗転の際に(着替えの間に)流れていた音楽は
そのドラマのテーマソングだった。
中入後は、「らくだ」。
小市民の屑屋とやくざ者が酒の勢いで反転し、やがて入れ替わるのが白眉の噺だが
とはいえ屑屋がやくざほどには性格悪くはならず、
やくざは、さんざん悪さをした乱暴者の弟分も、性格がねじ曲がることがあった
かわいそうな奴だ、と泣き上戸になるなど、
反転する面白さは残しながら、それぞれの性格はきっちり演じ分けている。
ドラマでの役者の経験が反映しているのか、うまい。
3時間をオーバーするサービスたっぷりの独演会。
趣きのあるスペインバルを見つけて、辛口のカヴァで
どれも上等でたいへん結構。