松田権六の文箱

芸大美術館で有名作家の卒業制作作品がかなり出品されていて興味深く見る。

中でも松田権六の文箱(こじんまりしたいい形)が気にいる。

 

まだ若いころからこのくらいの作品を作っていたのかと。

 

蓋裏には咆哮する獅子。

表には逃げ惑う草食動物たち、という見立ても楽しい。

 

同じく板谷波山の卒業制作は木彫で

当初は木彫を志したのか、というのも驚きだが

これもまた端正である。

 

若書きという言葉があるが

若いうちから完成度の高さが感じられる作家というのは

一定数いる。

どうということもなく、ただそうなのだ、というだけなのだが。

 

 

あおやぎを買ってきて

 母のところに供える。


両親の実家のある海辺ではこの貝が昔はよく取れて

干したものをあぶったり

ちょっときざんでから味噌で煮付けたり

もちろん刺身でも甘くておいしいのだが。


近所のスーパーで時々出回る。

大きめのパックを買ってきて

お母さん、めずらしいものがあったよと。


今日はなじみの店でゆっくりと昼食を取り

一杯のワインをゆっくりとあけて

めずらしくすいていたので、店員さんと他愛もないやりとりを。


薦められたヴァイツェンビールドイツのもので

(ヘフェ・ヴァイツエン)

よく似た名前のどくろのパッケージのメキシコのものしか見つけられず

まあ、それもご愛嬌。


今日はいい休日だった、そんな足元だけ見つめて

一日、日が暮れる。

立川流トークライブにいく

ずいぶんと怪しい歌舞伎町の一角。
ライブハウスらしいが。


若手の元気な意見や宣言を聞きながら
いずこの組織もあれこれあるのだと思いいたる。
特になにやらクリエイティブなことをやっているところは
管理系や働く基盤整備をする人が薄く
システムの未整備から来る効率の悪い働き方を強いられたり
情報伝達が悪かったり。


会社や組織共通の利益をしっかり定めて
そこだけでも合理的でよいやり方をすればいいだけなのだが。


好きだけでつづけられる人が多い場所ほど
働きやすい仕組み作りはないがしろにされる。


家に戻り、急転直下したことで久々に会った身内の若い子からも
同じような悩みを聞く。
(でも、その仕事を私がやるのは違うの、と)
ひとつのことが、いろいろなことにつながる。


いまはそのフェイズ。

 

真実の10メートル手前

読み始めて、流行りのイヤミスかと思うが

読後感は悪くなかった。

読後感に救いがある理由ははっきりしている。

 

主人公の、グロテスクな真実を前にした

決して正義感だけではない、

悩みながらも一貫した態度を取ろうとする

筋を通そうとするその態度が、救いなのだろう、と。

 

やりきれない、うんざりするような他者とのせめぎあいの中。

 

自分を含めた、人間の弱さやどうしようもなさを肯定して

その上で何ができるか。

そんな姿勢に。

 

それにしても、いまどきこんな姿がはまるのは

若くて芯の強い女性だけなのだろうか。

 

案外、それも真実かもしれない、と。

 

 

 

 

成金で落語に王手

なかなかいいタイトルだ、と思う。
成城落語会のおすすめの会、ということもあって。
ここしばらく、ややこしいことが続発してもう無理かと思ったのに
なぜかスポッと時間が取れて奇跡のような時間となる。


さて、幕が上がると2人が着物、2人が洋服のままトーク
出の順はじゃんけんで決めたらしいが、釈台がでていることから
松之丞と知れる。
どうやら成金は11人のグループらしく、今日はその中から4人選抜
ということらしい。
会場は若手の会にしてはめずらしく満席。


神田松之丞:大高源吾
柳亭小痴楽:花見の仇討ち
中入り
春風亭昇々:弘法大師(新作)
滝川鯉八:長崎(新作)


前半は古典、後半は新作というのは
単なる偶然のようだが。


トークで並ぶと松之丞さんと小痴楽さんの顔の大きさの違いが際立つ。
小痴楽さんは着物の趣味も着こなしもまずまず。
後で知ったが、父上は先代痴楽。おや二世でしたか。


さて、開口一番は松之丞さん。
ホワイトデーに、わざわざ落語を聞きにくるという皆様には
といいながら、どうやら渋めのものを選ぶらしい。
開口一番には不似合な演目を、といい会場の明かりをしぼり「大高源吾」へ。
前回聞いた話(「雷電初土俵」)とは打って変わり、じっくり聞かせる。
なるほどこうして聞けば、若さに似あわずうまい人らしいと知れるが。


次にあがる小痴楽さんはさぞややりにくいだろうと思うも
おそらくはそれはそれと、すべったり噛んだり言い間違えたりしながらも
愛嬌なのか、機転なのか、場数を踏んでいることからくる度胸なのか、
はたまた人気上昇中の勢いやら自信なのか。
うまくはないのだが、勢いで押し切ってしまいそこそこ受けつつ高座をおりる。
当人は少々微妙な表情で降りたことからして、何やら言いたいことはありそうだが。


さて、熱演が続き時間オーバー気味。仲入りは10分とのこと。
小雨の降る寒い外に、ちらっと出て冷たい空気を吸う。


会場に戻り、後半最初は昇々さん。春風亭で昇の字だから昇太さんのお弟子さんか。
師匠に似てさほど滑舌はよくないが、こちらもおかしみで押してぐいぐいいく。
新作だけに、うまさというよりはキャラクターも出て
ナンセンスな笑いこちらも受けて降りる。


続いて鯉昇さんのお弟子さんか、鯉八さん。
こちらも新作。
独特の間合いとキャラで笑いを積み上げる。
つぼにはまって吹きだす人多数。


総じて若手の勢いと上り調子、時分の華やかさのある
笑いの多いいい会だった(松之丞は置くとして)。
もちろんまだまだ粗削でへたくそなのだが(松之丞は置くとして)、
若い子はいいねえ勢いがあって、などと年寄りのように。


吉笑さん、やっぱり立川の若手は負けてるんじゃない?
なんてひっそり笑いながら。
お頑張りなさい、若いんだから、と年寄りの猫のように。
しっぽをゆるゆると振って。
今日はここまで。

 

 

 

落語の絵本

落語の絵本というものがでて
談春さんの夢金の巻を入手。


画がいい。
そこによく絞りこまれた短い文章。


口演なら30分程度の噺か。
じっくり語れば、だが。
情景描写を画にまかせ、とはいえ肝になる部分は
文章も残している。


短い文章で展開を書き切るのに
画が先なのか、プロットが先なのか。


どんな手順で作られたのかが興味深い。
子供向けといいつつ、大人にもわかりにくい言葉をいれ
凝った文章だ。


雪の降りしきる夜の風景は
落語の中でも季節感のある噺ならではで。
寒さや冷え込みが伝わってくる。


夢の中での人助け。
いえいえ、夢ではありませんよ、きっと。
どうしてだか、そんなせりふをそっと船頭にかけてみたくなって。


冬はすぎ、春には早いけれど。

 

都民寄席にゆく

申し込んでいた都民寄席に当選し
友人と待ちあわせて出かける。


神田松之丞:講談 雷電初土俵
滝川鯉昇:茶の湯
仲入り
長井好弘:解説 
林家正楽紙切り
柳亭市馬:二番煎じ


頭は欠けるかな、と思いつつ小走りに会場へ。
まだ枕の最中で、席につくと本編が始まる。
どうやら講談界の売出株の様子だが。
若い割に泥臭い芸風。好みはわかれよう。
熱演と思うか、暑苦しいと思うか、まあそんな違い。


打って変わって鯉昇さん。
(漢字変換させようとして、ああ鯉のぼり・・)
ゆるゆると落語はもっとゆるいんです、という風情が
落語ファンとしては心地よい。
仲入りをはさみ、新聞で落語評を書く新聞社の方の軽い解説。
この解説で、後があるのでと松之亟さんがさっさと帰ったことが知れる。
売れっ子、ということか。
おなじみの正楽さんの紙切り芸の後、市馬さん。
相変わらずのいい喉を披露して。


その後は地元だけに腰を据えて友人と話し込む。
話題は年のせいか、老親のことや自分たちの老後。
しんみりとして夜が更ける。
からっとはいかず、こんな時が訪れるとは思いもせず。

ただただ嘆息のこの頃。