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SFアンソロジー「さよならの儀式」

前年度に発表されたSFの短編小説

そのアンソロジーという試みに素敵なタイトルがついている。

この作品を読んでみて、と友人に勧められて

それを機内の移動時間に読んでみる。


正確には、その中の1篇、その人の知人が書いたという

「ウンディ」という作品。

生命体の楽器を演奏する演奏家が、

ちょっとしたライブコンテストを勝ち上がり

そして惜しくも敗れたあとで出会う、まるで

奇跡のような一瞬を描く物語だ。


楽器が小動物だから、演奏の前には毛並みを撫でて

ちょっとした餌をやり、落ち着かせなければならない。

音域の広さが、その動物の結節の数の差、

種類の差になっており

主人公はその楽器=小動物を使って

自分のイメージ通りの音を出そうとするが

楽器としてのスペックが低くて

最後の飛翔の瞬間に音楽が失速する。


それを、そのライブが終わった後に

有名なアーティストとそのウンディ(楽器である

小動の種の名前だ)から声をかけられてセッション

始める。

ここで失速する、そう思われた瞬間に

ないはずの結節が進化して、殻を破り現れて

さらに高みにかけ上る音域が主人公のウンディに

もたらされる。


この小動物は、演奏者の人間たちと音楽で戯れ

楽しく遊ぶことで、その奏者を純粋に喜ばせようとして

奏者への深い愛から、演奏のさなかに

時として楽器としての性能の進化を遂げる、らしい。


ライブの決勝戦で敗れ、手に入れられなかった賞品の楽器、もう1機種上のウンディ。

その前だって1機種上のウンディを手に入れて

決戦に臨むことだってできたものを。

主人公は自分のウンディへの愛とこだわりから

その楽器を手放さなかった。


コンテストのあと、審査員を務める伝説の奏者と

その相方のウンディとのセッションで、

主人公は自分のウンディが進化する様を

目の当たりにすることになる。


ファンの愛情と期待を受けて、まだ若いこれからの演奏者が

実力を超える演奏を次々繰り広げらるような、

そんな僥倖のような瞬間。


岡倉天心のいう「龍門の琴」のように気難しくはなく

むしろ、一生懸命なのだけれど、力の足りないその楽器は

愛と楽しみにあふれた素晴らしいセッションという場で

一段上の音域を出す結節を開花させる。


ねえ、人には向き不向きというものがある。

自分の受けてきた教育とやり方が

誰にでも向くわけじゃない。


それを伝えたくて。あなたに。

ただ。それだけを。