成金で落語に王手

なかなかいいタイトルだ、と思う。
成城落語会のおすすめの会、ということもあって。
ここしばらく、ややこしいことが続発してもう無理かと思ったのに
なぜかスポッと時間が取れて奇跡のような時間となる。


さて、幕が上がると2人が着物、2人が洋服のままトーク
出の順はじゃんけんで決めたらしいが、釈台がでていることから
松之丞と知れる。
どうやら成金は11人のグループらしく、今日はその中から4人選抜
ということらしい。
会場は若手の会にしてはめずらしく満席。


神田松之丞:大高源吾
柳亭小痴楽:花見の仇討ち
中入り
春風亭昇々:弘法大師(新作)
滝川鯉八:長崎(新作)


前半は古典、後半は新作というのは
単なる偶然のようだが。


トークで並ぶと松之丞さんと小痴楽さんの顔の大きさの違いが際立つ。
小痴楽さんは着物の趣味も着こなしもまずまず。
後で知ったが、父上は先代痴楽。おや二世でしたか。


さて、開口一番は松之丞さん。
ホワイトデーに、わざわざ落語を聞きにくるという皆様には
といいながら、どうやら渋めのものを選ぶらしい。
開口一番には不似合な演目を、といい会場の明かりをしぼり「大高源吾」へ。
前回聞いた話(「雷電初土俵」)とは打って変わり、じっくり聞かせる。
なるほどこうして聞けば、若さに似あわずうまい人らしいと知れるが。


次にあがる小痴楽さんはさぞややりにくいだろうと思うも
おそらくはそれはそれと、すべったり噛んだり言い間違えたりしながらも
愛嬌なのか、機転なのか、場数を踏んでいることからくる度胸なのか、
はたまた人気上昇中の勢いやら自信なのか。
うまくはないのだが、勢いで押し切ってしまいそこそこ受けつつ高座をおりる。
当人は少々微妙な表情で降りたことからして、何やら言いたいことはありそうだが。


さて、熱演が続き時間オーバー気味。仲入りは10分とのこと。
小雨の降る寒い外に、ちらっと出て冷たい空気を吸う。


会場に戻り、後半最初は昇々さん。春風亭で昇の字だから昇太さんのお弟子さんか。
師匠に似てさほど滑舌はよくないが、こちらもおかしみで押してぐいぐいいく。
新作だけに、うまさというよりはキャラクターも出て
ナンセンスな笑いこちらも受けて降りる。


続いて鯉昇さんのお弟子さんか、鯉八さん。
こちらも新作。
独特の間合いとキャラで笑いを積み上げる。
つぼにはまって吹きだす人多数。


総じて若手の勢いと上り調子、時分の華やかさのある
笑いの多いいい会だった(松之丞は置くとして)。
もちろんまだまだ粗削でへたくそなのだが(松之丞は置くとして)、
若い子はいいねえ勢いがあって、などと年寄りのように。


吉笑さん、やっぱり立川の若手は負けてるんじゃない?
なんてひっそり笑いながら。
お頑張りなさい、若いんだから、と年寄りの猫のように。
しっぽをゆるゆると振って。
今日はここまで。

 

 

 

落語の絵本

落語の絵本というものがでて
談春さんの夢金の巻を入手。


画がいい。
そこによく絞りこまれた短い文章。


口演なら30分程度の噺か。
じっくり語れば、だが。
情景描写を画にまかせ、とはいえ肝になる部分は
文章も残している。


短い文章で展開を書き切るのに
画が先なのか、プロットが先なのか。


どんな手順で作られたのかが興味深い。
子供向けといいつつ、大人にもわかりにくい言葉をいれ
凝った文章だ。


雪の降りしきる夜の風景は
落語の中でも季節感のある噺ならではで。
寒さや冷え込みが伝わってくる。


夢の中での人助け。
いえいえ、夢ではありませんよ、きっと。
どうしてだか、そんなせりふをそっと船頭にかけてみたくなって。


冬はすぎ、春には早いけれど。

 

都民寄席にゆく

申し込んでいた都民寄席に当選し
友人と待ちあわせて出かける。


神田松之丞:講談 雷電初土俵
滝川鯉昇:茶の湯
仲入り
長井好弘:解説 
林家正楽紙切り
柳亭市馬:二番煎じ


頭は欠けるかな、と思いつつ小走りに会場へ。
まだ枕の最中で、席につくと本編が始まる。
どうやら講談界の売出株の様子だが。
若い割に泥臭い芸風。好みはわかれよう。
熱演と思うか、暑苦しいと思うか、まあそんな違い。


打って変わって鯉昇さん。
(漢字変換させようとして、ああ鯉のぼり・・)
ゆるゆると落語はもっとゆるいんです、という風情が
落語ファンとしては心地よい。
仲入りをはさみ、新聞で落語評を書く新聞社の方の軽い解説。
この解説で、後があるのでと松之亟さんがさっさと帰ったことが知れる。
売れっ子、ということか。
おなじみの正楽さんの紙切り芸の後、市馬さん。
相変わらずのいい喉を披露して。


その後は地元だけに腰を据えて友人と話し込む。
話題は年のせいか、老親のことや自分たちの老後。
しんみりとして夜が更ける。
からっとはいかず、こんな時が訪れるとは思いもせず。

ただただ嘆息のこの頃。

高円寺演芸祭り

たぶん5年ぶりか、そのくらい久々の演芸祭り。
なにかと気ぜわしい中、最終日になんとかでかける。


少し早めにつき、予約もあることだしと
座高円寺の「寄席の粋、手ぬぐい展」へ。
噺家さんの手拭いの展覧会だが、オークションで好きなものを
ゲットできるという。熊本復興チャリティというところか。
落語家風くまもんのトートバックも販売中。


ついで商店街のかなり奥まった場所の不動産だかリフォームだかの会社と
その隣の沖縄料理店の2軒で、2人の噺家がそれぞれ交代に一席ずつ口演するという
「2軒並んで落語会」へ。


せまいオフィスにぎっしり椅子を並べ20人はいったかどうか。
一番前の席と20cmと離れていないきつきつの高座にあがると
こはるさんが開口一番「すごいですね、みなさん羽毛布団とか壷でも買わされそうですね」。
笑いを取りながら、ちょっと伸びたショートカットで
案外いろっぽい義太夫のお師匠さんを演じる。

立川こはる:転宅
中入り
立川笑二:新作(沖縄伝承をもとに)

笑二さんは一度聞いてみたかった人。
沖縄の民話をもとにした新作、といいながら手慣れた人情噺になっている。
一人35分と意外にたっぷりの口演。


そこから駅のちょうど反対側の氷川神社の会場へ。
日が沈み、そこまで小春日和だったのが急に冷えてくる中
境内で前の部の終了と入れ替え待ちの列に並ぶ。
この日、3回の入れ替え制のようだったが、全部こなすつわものも。


木戸銭を支払い中に入ると座敷に座布団、50人はいれば足を延ばす余地もない広間。
そこで6人の2つ目の噺を聞く。


桂竹千代:新作
柳亭小痴楽粗忽長屋
春風亭正太郎:棒鱈
中入り
立川吉笑:新作(ぞーん)
古今亭始:野ざらし
三遊亭歌太郎:寝床


売り出し中で勢いのある2つ目を一気に6人聞けるのは
大変ありがたいのだが、2時間の予定を45分押すとなるとさすがに辛い。


とはいえ、勢いのある若手ばかり8人を聞けてなかなか実り多い高円寺の夜だった。
商店街や街を上げて若手落語家を応援する姿勢も
庶民的で楽しそうな街並みも好ましい。
来年も時間をやりくりして朝からはしご、と心に決めて
こんなに遅くなるつもりじゃなかったんだけれど、とぼやきつつ。

 

解消と融和はなされないまま

試みたこと、画策したこと。

融和はなされないまま、次の世代に引き継がれる中で

すべては規知のこととして進んでいくらしい。


寄席に出ない。

だから、一人の会を中心に客を集める力をつける。


それがここで生き残る最善のことだと

今はその基準がスタンダードになる。


この間の「居残り佐平治」に漂った本物の詐欺師のような

決して落語には出てこない類のひやりとする存在は

あれは何を現していたのか、と。


何が起こるかと待ちかまえ、なにも起こらぬまま。

季節はまた巡る。

江國香織「間宮兄弟」 ジュンパ・ラヒリ「別の言葉で」

間宮兄弟」はDVDで見たことがあったのだが
江國香織の小説とは知らなかった。
一読して切なくて暖かくてとても気にいってしまう。
兄弟がはたから見たら浮世離れして気持ち悪く見えたとしても
好きな本の中の一節や、そこからインスパイアされたことを口にして
ほぼ瞬時にその感覚がわかりあえる、そんな相手に
人生の中でいったい何人巡り合えるかといったら。


そんな幸せを、価値観を、感覚を。
打てば響くように感じあえて、なおかつ当たり前に穏やかに
互いの存在を大事に思いあえる関係性。
全幅の信頼感をもって対峙できる相手にいったいどのくらい巡り合えるのか
まして身近に住まい、いつでも話せるところで。


競争ばかりしている子供っぽい男の子の中にだって
繊細で知的で言語感覚と感受性の豊かな、
ずっと話していたいと思える、そんな人をまれにではなく見つけた。
ほんの一時期、純朴な人の集う田舎の大学街では
それが珍しくもなく。
当たり前と思い、この先何人でも出会えると思っていた。


そんなことは、その先さっぱりなかったのに。


ジュンパ・ラヒリのエッセイを読みながら
友に出会える時期は実はひどく限られていることを思う。


自分の感受性が摩耗したわけではないことを確かめるように
人は年老いても小説を読む。
そんな気がする。

 

 

志の輔らくごin Nippon

志の輔さん、パルコ劇場休館中に全国12都市を巡るという。

その10都市目の横浜で、ラッキーなことにチケットが手に入る。

あまり演劇的な趣向はちょっとなあ、と思いつつ

それでもやっぱり、いそいそと出かける。


3時間の間、前座もなしで大神楽長唄三味線の間奏はありつつ

3席の熱演で。

どの噺も小細工なしの真っ向の落語


志の輔質屋暦(新作)

長唄三味線:鉄九郎

志の輔モモリン(新作)

中入り

鏡味初音:大神楽

志の輔:紺屋高尾


紺屋高尾は、さて談春さんと同じくすぐりなのだけれど

強いていうなら久蔵の感情表現のせりふが違うのかな。

ここが、あっさりとしてテンポがいいのは志の輔さん。

たっぷりと引っ張るのが談春さん。

高尾太夫も、談春さんのほうがもっと勝気。


新作もテンポよく、練り上げられていて文句のつけようがない。


さて、談春さんとの違いなども楽しみながら

その後、チケットを取ってくれた人との落語談義も楽しい。


といいつつ、一度きた人はまた来たいと思い

人にも薦めるでしょうから・・・

チケットはそうそう手に入らない。


機会があれば今度は伊能忠敬の話が聞きたいなあと思い

やはり立川落語のテンポの良さ、同時代性は好き、とあらためて。


ほろ酔いで、いい宵(酔い)を。

ひいきの談春さんもそのうちこの円熟に至るかしら、などと

遠い彼方を透かし見る。