「海の階段」と「ビルのゲーツ」

並べるというほど似ているかというと
そうでもないのかもしれないが。


意味も告げられずに、ただ、上に続く階段を昇る。
おそらくは好奇心にかられて。(ビルのゲーツ)


打ち捨てられた、そこにあることは誰もが知っているけれど、
誰も存在を気にしなくなっていた海の中の天に続く階段を
かつて祖父がそこを昇ったというその話を聴いて、
ただ、好奇心と冒険心にかられて、その先の景色を見てみたくて。
ランドセルを置いて、祖父がかつてしたように
好きな女の子を誘って。(海の階段)


祖父が、大師匠の比喩なのか、というとちょっときな臭い。
まあ、そんなことはどうでもいいだろう。


立川春吾「海の階段」
ヨーロッパ企画「ビルのゲーツ」


しゃかりきになり精神論で、
休息もとらずに上を目指した一行は脱落し
バカバカしいほど無意味な問題を
ただクリアしながら昇って行った若者は
200階の屋上にひろがる夕焼けをただ眺めて深呼吸をし
あっさりとビルの階段を降りはじめる。
期待もせず、落胆もせず、ここまで来たら上に何があるか
ただそれだけを見てやろうと。


屋上にたどり着いたのは
無駄な思い込みを捨て、意味を問わず、焦燥感にもかられず
さして期待もせずに、別ルートや別の解でも良しとして
他者の助けや知恵も借りる、無理もしないグループの中の
若くて体力がある若者だけだった。(ビルのゲーツ)


ちょっと面白い。


話変わって。
屑の絹糸を使って、安く作れるがゆえに大胆な色柄で
働く女性が自力で購入できるようにして爆発的に流行ったのが
銘仙という着物だった。
安っぽいが、自由で大胆で闊達な、かつてないほど素敵なデザインが百花繚乱、
それを身にまとう女たちののびやかな喜びとともに一世を風靡した。
高価な絹の着物は、代々祖母や母から娘に大事に受け継がれるため
勢い、その時限りのものではなく、デザインも柄ゆきもおとなしくなる。
そんなエピソードをたとえ話に。


時分の花、ではないけれど大胆に時代に沿うものと
守り受け継ぎ、受け渡すものの両方を。
武器になさい、とその人にも。
告げた気になって、鳩の足に結び付けた手紙を飛ばす。
誰のもとに届くのか、相変わらずわからないまま。