語り芸の本質  立川談春 九州吹き戻し

談春さんがここのところ都内でネタだしをする会を連続してやっている。
その中で九州吹き戻しの会の、めずらしく先行発売の案内がきており
「難しい(やる方も、聞く方も)噺だからねえ・・」と思いつつ試したところ
久々に前の方の席がとれてしまう。


実のところは今月末の曳舟での演目の方が好みではあるのだが
まあそれはそれと、初めていく会場の外苑前にでかけた。


なんとも古いホールでロビーもせまく、なにより梅雨時で雨なのに開場まで待つ場所もない。
場内の入ると、妙に横長の舞台と客席の並びで
椅子もかなり古く、今時のホールに比べればすわりごこちもよろしくはない。
子供向けかしらと思うほど幅が狭く、座面が低く背もたれをはね上げる仕組みのため
後ろの背もたれに体を預けようとするとお尻の位置によっては
座面が落ち込んでお尻が安定しない。
それを避けるには、足を伸ばして足で押さえる(バランスをとる)必要があり、

腰の悪い人には、正直辛い。


そんな中で「九州吹き戻し」を最初から始めるために前座さんなし、
無粋な開演ベルならぬ開演ブザーが鳴り
出囃子のあと場内は急速に暗くなる。
見ると非常口の灯りの消灯ができない古いタイプなのか
目隠しの青いフィルムが非常口の案内灯に張られている。



この噺は舞台に集中してもらおうとしても
なかなか難しいだけに、笑いを入れたり、あれこれと。
結論から言うと、何度か聞いた談春版の中でも圧倒的に「聞ける」ものだった。
(この噺を白酒さんなど雲助一門がやる、と言う話ははじめてきいた)
笑いでつなぐというよりは
大海原の情景はじめ、嵐の風景など
飯島某の「始祖鳥記」を思わせるようなスケール感で
圧倒的な迫力の絵が浮かぶ。
語りの醍醐味の一端を味わうことができた。
(こはるさんが「始祖鳥記」を好きだといっていたので
 談春さんも読んでいて描写の参考にしたのかも)


後半は罪滅ぼし?的にこのホールで数十年前にやった
ミュージカルの話で散々笑いをとったあと
こちらもネタだししてあった宮戸川(上)を。
どうやら花緑さんヴァージョン。
噺の最初から最後まで笑いをふんだんにいれ
きっちりとサービスして終わる。

 

2つを聞き比べるといよいよはっきりするけれど

九州吹き戻しのような噺は、やはりにぎわい座くらいの場所で聞きたい。
語りの本道の噺なんだろうな、こちらのほうが。
鮮やかな映像を見ているような脳内パラダイス。

ああ、こういうものか、と思いながら
雨のあがった、水たまりの多い歩道を歩く。
談志さんの芝浜のCDの、海辺の夜明けの描写のときに感じた

あの感覚。その本質はこういうことだったのか、と。