桜の花の色

雨のあとで水を含んでいるからなのか

芽吹いた葉の緑が遠目にはまじるからか

あの吹雪に例えられるソメイヨシノの薄い色合いが、

今日はもうかすかに濁って見える。


それが、何かに絡め取られて身動きできない間に

もっともピュアな色の一瞬を見逃して

間に合ったと思った時には、すでに別のものに変わってしまった

そのことの象徴のようにも思えて、とても切ない。


風雨に晒されることなく

まだ開いたばかりのやわらかい花弁の

いっさいの濁りのない花色のときに

すこしであれ愛でる時間があればよかったものを。


取り返しのつかないこと。

壊れてしまい決して元に戻らぬこと。

そのことをただ、静かに花の色の違いとして

感じているような。

日差しの下では、もっと残酷に違う色に見えると知って

明日はせめて晴れずにいてくれろと、願うばかり。